エナメルについて、あなたはどれくらいご存知でしょうか。
エナメルという言葉の裏には、熟練のガラス職人たちが何世紀にもわたって絶え間なく改良を加えてきた、古からの複雑なノウハウが隠れています。ペイント エナメルから、アールヌーヴォ―運動(1880~1914年)で特に採用されたプリカジュール技法まで、エナメルで着色された素材の深みと強烈な輝きによって、ジュエリーと芸術作品は新たな次元へと発展しました。
紀元前2千年の古代ギリシャですでに用いられていたエナメル加工は、金属とガラスの融合を伴う巧みな錬金術の産物と言えます。
フランスでは12世紀から17世紀にかけて広く使用され、偉大なエナメル職人一族たちが、常に新たな技法を生み出しながら技術を継承していきました。例えばシャンルヴェ エナメルは中世にリモージュなどで大きく栄え、グリザイユ エナメルはピエール・レイモン(1513~1584年頃)の作品によく使用されています。プリカジュール エナメルは、パリのエナメル職人および宝飾職人として1870年代から1880年代にメゾン ブシュロンで活動したシャルル・リフォーによって用いられました。19世紀末から20世紀初頭の科学知識の飛躍に後押しされ、エナメルは、アールヌーヴォー期のほとばしる創造力にも寄与しています。
ジュエリー史を形作る技術と装飾の探求に活用され続けてきたエナメルは、人々の興味を掻き立て、かつインスピレーションを与えます。透明、半透明、そして不透明にもなるエナメルは、現代デザイナーのイルギーズ・ファズルジアノフ(1968年生)とエレナ・オクトヴァが制作したナラティヴ リングなど、現代の作品のテクスチャーにも絶妙な変化を添えています。それはヴァン クリーフ&アーペルの仕掛け時計、エクストラオーディナリー オブジェの第一号となった、「フェ オンディーヌ オートマタ」(2017年)も同様です。サファイアでドレスアップした妖精には、ダイヤモンドをあしらったプリカジュールエナメルの半透明の羽が生えています。
ジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」教師で熟練のエナメル職人のマリ・オベルラン、そして装飾芸術とジュエリーを専門とする美術史家でありレコールの教師でもあるポール・パラディが、余すところなくエナメルの神秘を解き明かします。
トークスケジュール・言語
9月14日(木)午後8時(日本時間)
英語(日本語、広東語、北京語の同時通訳付き)
写真:
ブシュロン、シャルル・リフォー作のエナメル作品、ヘアピン(部分)。
ブロンドホーン、エナメル、ゴールド、ダイヤモンド、天然パール、養殖パール、1870年。
パリ、ブシュロン コレクション。
写真:バンジャマン・シェリー